有限要素解析(FEA)による疲労寿命評価をAIサロゲートモデルで高速化
40形状の解析を約40分から約15秒へ短縮
株式会社ゴーデルブロック(本社:東京都新宿区、代表取締役:田中昭雄)は、2026年8月、米国テキサス州ヒューストンで開催された国際会議「IDETC-CIE 2026」において、3D鋼製シャフトの疲労寿命をノード(節点)単位で予測するディープラーニング・サロゲートモデル「FatigueNet」に関する研究成果を発表しました。
本研究では、従来は有限要素解析(FEA)によって評価していた3次元形状全体の疲労寿命分布を、AIによって高速に推定する手法を構築しました。未学習の40形状に対する推論を約15秒で完了し、同等の40形状をFEAで再解析した場合に必要となる約40分と比較して、大幅な計算時間短縮を実現しています。
あわせて、本研究で使用した3次元FEAデータセットおよびFatigueNetの実装コードを一般公開しました。
ASME国際会議「IDETC-CIE 2026」で研究成果を発表
本研究は、ASME(米国機械学会)が主催する国際会議「ASME 2026 International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference(IDETC-CIE 2026)」において発表されました。発表は、設計・製造分野におけるAI・機械学習の応用をテーマとしたセッション「CIE-25-03: SEIKM Artificial Intelligence and Machine Learning for Design and Manufacturing」にて行われています。
論文タイトル:FatigueNet: Deep Learning Surrogate Model for Node-wise Fatigue Life Prediction in 3D Steel Shafts
論文番号:DETC2026-193892
IDETC-CIE 2026は、2026年8月23日から26日まで、米国テキサス州ヒューストンの「Hilton Americas-Houston」で開催されました。
3D鋼製シャフトの疲労寿命を「点」ではなく「分布」としてAI予測
段付きシャフトやドッグボーン形状のフィレット部など、形状が急激に変化する箇所では応力集中が発生しやすく、疲労破壊の起点となる可能性があります。そのため、機械部品の設計では、形状全体にわたって疲労寿命を正確に評価することが構造健全性を確保するうえで重要です。従来、このような評価には有限要素解析(FEA)が広く利用されています。FEAは高精度な構造解析を行える一方、多数の設計候補を比較する設計最適化や、リアルタイムに近い構造評価では計算コストが課題となります。
また、従来の機械学習を利用したサロゲートモデルの多くは、部品全体の疲労寿命を単一のスカラー値として予測する方式であり、複雑な3次元形状内部における疲労寿命の空間的な分布を十分に表現できないという課題がありました。FatigueNetでは、こうした課題に対し、3次元の非構造メッシュ上に存在する各ノードについて疲労寿命を直接予測します。
座標・法線・局所曲率などの幾何特徴量をAIへ入力
FatigueNetでは、3次元形状を構成する各ノードについて、単純な空間座標だけでなく、複数の幾何学的特徴量をAIモデルへ入力しています。主な入力情報には、以下が含まれます。
- 3次元空間上のノード座標
- 表面の法線情報
- 局所曲率
- 形状の不連続部までの距離
これらの特徴量を組み合わせることで、シャフト形状における局所的な応力集中や疲労寿命の空間勾配をディープラーニングモデルが学習できる構成としています。さらに、疲労寿命は条件によって数桁単位で変動するため、本研究では対数領域におけるハイブリッド損失関数を導入しました。これにより、広い範囲に分布する疲労寿命データに対する学習を安定化し、長寿命領域から短寿命領域までを扱えるモデルの構築を目指しています。
40形状の疲労寿命予測を約15秒で完了
FatigueNetの大きな特徴の一つが、推論速度です。研究では、学習時に使用していない40種類の3Dシャフト形状を対象として疲労寿命を予測しました。FatigueNetによる40形状の推論時間は約15秒でした。一方、同じ40形状について有限要素解析を改めて実行した場合、1形状あたり約1分、合計で約40分を要します。
これにより、FEAを毎回実行する場合と比較して、疲労寿命評価に必要な計算時間を大幅に短縮できる可能性を示しました。大量の設計候補を比較する設計空間探索や、パラメータを変更しながら繰り返し解析を行う最適化プロセスなどへの活用が期待されます。
亀裂発生につながる最小寿命ノードも高い精度で予測
疲労設計では、形状全体の寿命分布だけでなく、最も早く疲労破壊が発生すると考えられる「最小寿命ノード」を特定することが重要です。本研究では、引張荷重、ねじり荷重、引張とねじりを組み合わせた複合荷重の各条件についてFatigueNetの予測性能を検証しました。その結果、亀裂発生の起点となる可能性が高い最小寿命ノードについても、FatigueNetによる予測値は、いずれの荷重条件においても参照値の±2倍以内に収まりました。
単一の疲労寿命値を出力するだけではなく、3次元形状全体についてノード単位の疲労寿命分布を推定できることが、FatigueNetの特徴となっています。
FEAを補完するAIサロゲートモデルとして設計開発を高速化
FatigueNetは、有限要素解析そのものを単純に置き換えることだけを目的とするものではなく、計算コストの高いFEAによって構築されたデータをAIが学習し、その結果を高速に近似する「サロゲートモデル」として設計されています。従来は多数の設計案ごとにFEAを実行する必要があった工程について、AIによる高速推論を組み合わせることで、大規模な設計空間探索や構造評価の効率化につながる可能性があります。例えば、シャフト径やフィレット形状など複数の設計パラメータを変化させながら、多数の候補形状について疲労寿命を評価するような用途への応用が想定されます。
株式会社ゴーデルブロックでは、科学技術計算ソフトウェア開発やリアルタイムシミュレーション技術の研究開発を通じ、CAE・数値解析をより高速かつ身近に利用できる環境の構築を進めています。
3次元FEAデータセットとFatigueNet実装コードを一般公開
本研究では、研究成果の発表だけでなく、FatigueNetの学習に使用した3次元有限要素解析データセットと実装コードについても一般公開しています。疲労寿命予測やAIサロゲートモデル、CAEと機械学習を組み合わせた研究開発におけるデータセットやベンチマークとして利用できます。
データセット:https://huggingface.co/datasets/accelerated-komputing/FatigueNet
実装コード:https://github.com/AnK-Accelerated-Komputing/FatigueNet
研究者やエンジニアが実際のデータとコードを利用できる環境を整えることで、機械学習を活用した疲労寿命予測技術の研究や比較検証につながることが期待されます。
今後は材料条件や実験データへの拡張を予定
現在のFatigueNetは、単一材料である均質・等方性の鋼材と、理想化された境界条件を前提として構築されています。そのため、現時点では実際の機械部品に存在する可能性がある表面粗さ、残留応力、材料の微視組織などの影響はモデルに含まれていません。今後は、より実際の工業製品に近い疲労寿命評価を目指し、以下のような研究開発を進める予定です。
- 異なる材料条件への対応
- 実験データを活用した学習データの拡張
- 表面状態や材料特性を考慮したモデルへの発展
- 高サイクル疲労と低サイクル疲労を分離した学習
- より複雑な形状・境界条件への適用
AIと有限要素解析を組み合わせることで、従来は計算負荷の大きかった構造解析や疲労設計を高速化し、設計開発プロセス全体の効率向上を目指します。
日本・米国・ネパールによる国際共同研究
FatigueNetの研究は、日本、米国、ネパールの研究機関・企業による国際共同研究チームによって実施されました。研究には以下の機関が参加しています。
- Accelerated Komputing Pvt. Ltd.(ネパール)
- 株式会社ゴーデルブロック(日本・東京)
- カーネギーメロン大学(米国)
- トリブバン大学工学研究所(ネパール)
複数国の研究者・エンジニアが、機械工学、有限要素解析、人工知能・ディープラーニングなどの知見を組み合わせ、3次元構造物の疲労寿命予測に取り組みました。
IDETC-CIE 2026について
「ASME 2026 International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference(IDETC-CIE 2026)」は、米国機械学会(ASME)が主催する、設計工学および計算情報工学分野の国際会議です。2026年は8月23日から26日まで、米国テキサス州ヒューストンのHilton Americas-Houstonにて開催されました。設計工学、機械システム、計算工学、人工知能、機械学習、設計・製造DXなど、幅広い研究成果が発表されています。
株式会社ゴーデルブロックについて

株式会社ゴーデルブロックは、製造業の設計業務を中心とした業務改善を目的に、科学技術計算ソフトウェアの開発、技術サポート、エンジニアリングサービスなどを展開しています。
「リアルタイムシミュレーション」の実現を通じて、従来の解析業務を「より早く」「より簡単に」「より高精度に」行える環境の構築を目指し、CAEや科学技術計算を現場でより身近に活用するための研究開発を進めています。
会社名: 株式会社ゴーデルブロック
代表者: 代表取締役 田中 昭雄
本社所在地: 東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー N棟30F
事業内容: 科学技術計算ソフトウェア開発
公式サイト: https://www.godelblock.com/
本件に関するお問い合わせ先
株式会社ゴーデルブロック
担当:田中 昭雄
Email:[email protected]
記事要約(Summary)
株式会社ゴーデルブロックは、ASME主催の国際会議「IDETC-CIE 2026」において、3D鋼製シャフトの疲労寿命をノード単位で予測するディープラーニング・サロゲートモデル「FatigueNet」の研究成果を発表しました。FatigueNetは、3次元非構造メッシュ上の各ノードについて、座標、法線、局所曲率、不連続部までの距離などの幾何特徴量から疲労寿命を予測します。未学習の40形状に対する推論を約15秒で完了し、FEAで同様の解析を実施した場合の約40分から大幅な高速化を実現しました。さらに、引張・ねじり・複合荷重における最小寿命ノードについても、予測値が参照値の±2倍以内に収まる結果を確認しています。
研究で使用した3次元FEAデータセットとFatigueNetの実装コードは一般公開されており、今後は材料条件の拡張や実験データの活用、高サイクル・低サイクル疲労への対応などを進める予定です。
■プレスリリース配信元-株式会社ゴーデルブロック

























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